前立腺癌に対する放射線療法
早期に発見された限局性前立腺癌に対しては、放射線療法も手術療法と同様に根治を期待することができる治療法となります。放射線療法は外照射治療と組織内照射治療とに大別されます。金沢大学附属病院では健康保険の適用でこれらすべての放射線療法を行うことができます。
- 外照射治療
- 組織内照射治療(小線源治療)
外照射治療
放射線を体外から照射する方法です。
外照射治療は後述する組織内照射法に比べて周囲臓器への影響が懸念されていましたが、照射方法の技術進歩に伴い周辺臓器への影響を抑えながら効果的に標的病変に放射線を当てることが可能となりました。
強度変調放射線治療(IMRT)は多方面から放射線を照射する際に放射線の量を変化させることで、周囲への照射量を最小限に抑えながら計画した部位にのみ必要な放射線を当てることができる方法で、原則76グレイ(2グレイ×38回)照射します。治療の精度を向上させるため、治療前に会陰部(肛門と陰嚢の間)から局所麻酔下に前立腺内に非常に小さな金マーカー(3 mm×0.5 mm)を2か所に埋め込み、照射を行うことがあります。金マーカーは永久に体内に残りますが、日常生活に全く支障はありません。
当科では前立腺癌に対して、主に後述の組織内照射との併用でIMRTを行っており良好な成績を上げています。
組織内照射治療
放射線を体内から照射する方法でブラキセラピーと呼ばれています。
経直腸超音波で見ながら会陰部から前立腺に中が空洞の針を10-20本刺して、その中から放射線を発する小線源を前立腺内に送り込みます。小線源の種類によって低線量率小線源治療と高線量率小線源治療の2種類の治療方法があります。
低線量率小線源治療
線源としてヨウ素125を用います。
会陰部から前立腺に刺した針の中を通して線源を前立腺内に60-100個ほど植え込みます。この方法では線源は前立腺の中にずっと埋め込まれたままになりますが、1年ほどすると放射線を出さなくなるため線源が前立腺に埋め込まれたままでも問題はありません。シード線源のエネルギーは大変小さく体外への影響もほとんどありませんが、前立腺には半年間ほどかけてゆっくりと作用して、1年後にはそのエネルギーはシード単独の場合140-150Gy照射されることになります。
左図. シードは縦約1mm、横約5mmの小さなチタニウム製のカプセル型をしています
右図. 前立腺内に留置された線源のX線写真
なお最近は、SpaceOARTMシステムを用いたハイドロゲルを前立腺と直腸の間に注入し、物理的な距離を離すことで直腸になるべく高い放射線がかからなくし、放射線治療による直腸有害事象発生の可能性を抑える試みを行っております。
高線量率小線源治療
線源としてイリジウム192を用います。
会陰部から前立腺に刺した針の中を通して線源を前立腺内に一時的に送り込みますが、照射終了後には小線源は抜去します。前述のシード治療が長期間にわたり照射効果が続くのに対して、1回(13グレイ)の照射のみで高線量の放射線を当てて治療が終了します。当院では高リスク以上を対象としているため、この高線量率小線源治療の後にIMRT 44グレイ(2.2グレイ×20回)を骨盤内に行います。
外照射治療およびホルモン療法との併用
当科では中間〜高リスク前立腺癌に対しては、低線量率小線源治療単独あるいは高線量率小線源治療単独では十分な治療効果が期待できませんので、リスクに応じましてホルモン療法あるいは外照射治療の併用、あるいは両者併用で行っています。
低線量率小線源治療 | 高線量率小線源治療 | |
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用いる線源 | ヨード125 | イリジウム192 |
適応 | 低〜高リスク | 高〜超高リスク |
麻酔方法 | 腰椎麻酔 | 腰椎麻酔 |
入院期間 | 4日 | 7-10日 |
※HDR-ブラキセラピー+外照射(IMRT)+ホルモン療法の成績です。
5年非再発率:91.8% 10年非再発率:86.3%
(5年非再発率:ステージ T3b以下ー93.7%、T4ー72.4%)
(5年非再発率:骨盤内リンパ節転移ありー68%)