希少癌
希少癌について
希少癌とは、『人口10万人あたり6例未満の「まれ」な「がん」、数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他に比べて大きいがん種』の総称です。200種類近い悪性腫瘍が希少癌に分類されますが、泌尿器科領域では、精巣癌、後腹膜肉腫、陰茎癌、尿膜管癌、副腎皮質癌などが、この希少癌に該当します(精巣癌については、本ホームページに別掲してあります)。
後腹膜肉腫について
腹膜とは腹部臓器を覆う膜の名称で、後腹膜はこの腹膜の外側と腹壁で囲われる腔(スペース)を指します。一方、肉腫は、骨、筋、脂肪、神経などの組織から発生する悪性腫瘍です。
一般的に、腎、膀胱、前立腺など実質臓器から発生したものは、後腹膜肉腫には該当せず、後腹膜肉腫といった場合、後腹膜の主に筋、脂肪に発生した肉腫を指すことがほとんどです。
診断
発生初期に特徴的な症状はありません。検診などの画像検査の際、偶発的に見つかるケースもあります。
腫瘍が大きくなることにより、また腫瘍の発生部位によっては、腹部腫瘤、腹部もしくは背部の重い痛み、腹部膨満感、下血、体重減少、低栄養、息切れ、衰弱、下肢のしびれ、むくみ、吐き気などが出現することもあります。最初から泌尿器科を受診するケースは稀ですが、これらの症状が続く場合は、かかりつけもしくは近隣の医療機関を受診することが重要です。
CT、MRI、PET検査
後腹膜肉腫が確定的である場合に進行度を診断するために行います。
経皮的針生検
画像的な評価のみでは診断が困難な場合や、治療方針を決定する際に腫瘍の組織型を確認する必要がある場合に針で腫瘍の一部を刺して組織を取ってくる検査法です。超音波やCTで場所を確認しながら局所麻酔下に安全な場所を採取します。脂肪肉腫の一部では、FISH法という検査方法により、MDM2遺伝子増幅(遺伝子が増える現象)がみられることがあり、診断に際して補助的に使用されます。
治療
手術療法
手術は後腹膜肉腫に対する最も重要な治療法です。初発腫瘍の場合、切除は「肉眼的腫瘍残存なし」を目指すことが重要で、全ての切除断端に関して顕微鏡的に切除断端陰性(R0切除)が達成できることは困難であることが多いものの、周辺臓器を含め肉眼的に腫瘍が露出することなく切除を行うことで、術後に良好な局所コントロールが得られる、とされます。
化学療法
後腹膜肉腫に対する抗癌剤等の化学療法の有効性については、現時点で一定の見解は得られていません。現実的には、悪性軟部腫瘍で使用されるアドリアマイシン、エリブリン、トラベクテジンなどの抗癌剤、分子標的治療薬であるパゾパニブといった抗悪性腫瘍薬を、状況に応じて順次使用することがほとんどであり、一部の腫瘍で疾患コントロールが可能です。
放射線療法
化学療法同様、後腹膜肉腫に対する放射線療法の有効性については、現時点で一定の見解は得られていません。腫瘍が増大したことによる局所症状の緩和のため、放射線照射を行うことがあります。
陰茎癌について
診断
発生初期に特徴的な症状はありません。検診などの画像検査の際、偶発的に見つかるケースもあります。
腫瘍が大きくなることにより、また腫瘍の発生部位によっては、腹部腫瘤、腹部もしくは背部の重い痛み、腹部膨満感、下血、体重減少、低栄養、息切れ、衰弱、下肢のしびれ、むくみ、吐き気などが出現することもあります。最初から泌尿器科を受診するケースは稀ですが、これらの症状が続く場合は、かかりつけもしくは近隣の医療機関を受診することが重要です。
CT、MRI、PET検査
陰茎癌が確定的である場合に進行度を診断するために行います。
経皮的針生検
腫瘍組織の一部を採取し、顕微鏡で組織診断を行うことで確定診断となります。通常、局所麻酔下に行います。
治療法
手術療法
手術は陰茎癌に対する最も重要な治療法です。ある程度の進行がみられる陰茎癌の場合、陰茎全切断術および尿道会陰瘻造設術(尿の出口を陰嚢~肛門の間の皮膚に作成)を行い、比較的早期であれば陰茎部分切除術を行います。
化学療法
本邦で陰茎癌に対して保険承認されている薬物療法は存在しません。海外で使用されている薬剤をベースに、各医療機関の判断で薬物療法を考慮することになります。標準治療が存在しない場合、がん遺伝子パネル検査の適応となることから、薬物療法が必要となるケースについては、がん遺伝子パネル検査の検討対象となります。
放射線療法
比較的早期の陰茎癌かつ陰茎温存を希望される場合、適応を十分吟味した上で、実施する場合があります。
尿膜管癌について
尿膜管は、胎児の膀胱からの排出経路で臍帯(へその緒)につながっている尿膜が、出生後、索状に残ったものです。通常、出生に伴い線維性組織を残し消退しますが、出生後も尿膜管が残った状態を尿膜管遺残(いざん)と言い、これが悪性化すると尿膜管癌となります。尿膜管は膀胱頂部に遺残するため、膀胱頂部腫瘍であれば本疾患を疑うことになります。
診断
発生初期は多くの場合、無症状です。進行した場合、尿に血が混じったり(血尿)、膀胱あたりの違和感や痛みを感じることがあります。これらの症状が出現した場合は、泌尿器科を受診することが重要です。
膀胱鏡検査
膀胱の中を直接カメラで除くことで診断します。前述のように、尿膜管癌であれば膀胱頂部に腫瘤を認めます。
CT、MRI、PET検査
尿膜管癌が確定的である場合に進行度を診断するために行います。
経尿道的生検
膀胱腫瘍に準じて、腰椎麻酔下もしくは全身麻酔下に、経尿道的手術により、腫瘍の一部を切除し、この検体を使って病理組織診断し、確定診断となります。嚢胞(のうほう)性腫瘍の場合、生検による播種(はしゅ)を避けるため、治療的診断として経尿道的手術を省略し、最初から膀胱部分切除を行うことが考慮されます。
尿膜管癌では、癌細胞の形態(組織型)の大部分が腺癌であり、さらに胃癌や大腸癌などの消化管に発生する癌と組織学的に似ていることが特徴として知られています。
治療
手術療法
進行度評価で遠隔転移が無く切除可能と判断された場合、まず外科的切除を検討します。通常、腫瘍のある部分を含む膀胱壁から臍にいたる尿膜管を一塊として切除する手術(尿膜管および膀胱部分切除術)が一般的です。進行している場合、進行膀胱癌と同様、膀胱全摘除術および尿路変向術が検討されることもあります。しかしながら、進行した尿膜管癌では、腹膜をつたって癌細胞がばら撒かれるケースも多く(腹膜播種)、外科的切除による治癒が困難であるケースも少なく無いのが現状です。
化学療法
尿膜管癌は稀な腫瘍であるため、確立された標準治療は存在しません。ただ、膀胱に発生するため、膀胱癌に準じた薬物治療を行ったり、前述のように胃癌や大腸癌と類似していることから、これらの消化器癌に準じて薬物療法を行い、ある程度の治療効果がみられた、との報告は散見されますが、本邦では適応外となっています。尿膜管癌においても標準治療が存在しないことから、がん遺伝子パネル検査の検討対象となります。
放射線療法
化学療法同様、尿膜管癌に対する放射線療法の有効性については、現時点で一定の見解は得られていません。腫瘍が増大したことによる局所症状の緩和のため、放射線照射を行うことがあります。
副腎皮質癌について
副腎は左右の腎臓の上の後腹膜腔に位置し、血圧、血糖、水分・塩分量などの体内環境を常にちょうど良い一定の状態に保つためのホルモンを作る臓器です。また、性ホルモンの一部も副腎で合成されます。副腎皮質は副腎の外側を構成し、主にステロイドホルモンを合成しますが、これが悪性化したものが副腎皮質癌です。
診断
腫瘍が大きくなることで、腹痛や腹部膨満感などの症状が出現することがあります。また、腫瘍が副腎皮質ホルモンを過剰に産生することにより、血圧の上昇、高血糖、筋力低下、肥満になる、といったことが起こりやすくなります。
CT、MRI、PET検査
副腎皮質癌が確定的である場合に進行度を診断するために行います。
治療
手術療法
進行度評価で遠隔転移が無く切除可能と判断された場合、まず外科的切除を検討します。腫瘍の大きさによっては、可能な限り体への負担が少ない体腔鏡下手術を行い、体腔鏡下手術が安全に行えないと判断される場合には、開腹手術を選択します。
化学療法
手術での切除が困難と考えられる場合、または他の臓器への転移がみられる場合、進行を抑える目的で薬物療法の適応となります。オペプリム(副腎皮質ホルモン合成阻害薬)が唯一の保険適応承認されている薬剤です。エトポシド、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤を併用する抗癌剤治療(EDP療法)が有効である、との報告がありますが、本邦では保険未承認で適応外使用となっています。副腎皮質癌においても標準治療が存在しないことから、がん遺伝子パネル検査の検討対象となります。
放射線療法
副腎皮質癌に対する放射線療法の有効性については、現時点で一定の見解は得られていません。腫瘍が増大したことによる局所症状の緩和のため、放射線照射を行うことがあります。