前立腺癌
前立腺癌について
前立腺は精液の一部を作る男性固有の臓器で、膀胱から出た尿道の周りを取り囲むように存在しています。また、前立腺の背部には精嚢という精液をためる袋状の臓器が左右一つずつ付いており、精嚢に貯められた精液は射精の際に前立腺内の射精管を通って尿道に放出されます。前立腺癌は中高齢者に多くみられる癌でその罹患数は年々増えており、2019年のがん罹患数(男性)は一位(94748人)でした。
診断
早期の前立腺癌は無症状で、検診による前立腺癌のチェックが広く普及している日本では無症状のうちに発見されることが多いです。ある程度進行してくると血尿、排尿困難、頻尿などの症状がみられることがあります。
腫瘍マーカー(血液検査)
前立腺癌の腫瘍マーカーとしてPSA(前立腺特異抗原)があり、これは採血でチェックすることができます。非常に優れた腫瘍マーカーであり、前立腺癌の早期発見に大きく寄与しています。
経直腸前立腺超音波
前立腺は比較的体の奥の方に存在するため体の表面から行う超音波検査では詳しく見ることができません。そのため、前立腺の超音波検査は肛門から超音波プローブを挿入してより詳細に観察する必要があります。
CT、MRI
PSAや超音波検査で前立腺癌が疑われる場合、前立腺をより詳細に評価するためにMRIを行います。また、前立腺癌が確定した場合に進行度を評価するためにCTを行います。
骨シンチグラフィー
前立腺癌は骨に転移しやすい癌です。前立腺癌が確定した場合に、骨の転移の有無を見るために骨シンチグラフィーを行います。
経直腸前立腺針生検
前立腺癌の確定診断を行うために必須の検査です。前述の経直腸前立腺超音波で前立腺を見ながら10-12回程度前立腺を針で刺して組織を採取します。
治療法
手術療法
癌が前立腺内にとどまっている場合に根治を目的に行います。前立腺と精嚢を一塊にして摘出し、膀胱と尿道をつなぎなおします。以前は開腹して行っていた手術ですが、近年では安全に高精度で行えるロボット手術が全世界的に普及してきています。当科ではロボット手術を全国でもいち早く取り入れて行ってきた実績があります。
ホルモン(内分泌)療法
主に転移のある場合、手術後に再発してきた場合、手術を行えないような場合に行います。前立腺癌細胞は男性ホルモンの影響で増殖することが知られています。男性ホルモンを抑えることで前立腺癌の進行を抑えるのがホルモン療法です。男性ホルモンは主に精巣から分泌されるので、以前は去勢術(両側の精巣摘出)が行われていましたが、ホルモン療法(薬物療法)により同等の効果が得られるため、近年では去勢術が行われる機会は少なくなりました。
抗癌化学療法
進行前立腺癌に対して、ホルモン療法で治療効果が得られなくなった場合に適応となります。日本では2008年にドセタキセル、2014年にカバジタキセルが保険適応となっています。抗癌剤特有の副作用が出ることがあるため導入時には入院が必要ですが、導入後は外来通院にて続けていきます。
放射線療法
外から放射線を当てる外照射療法と針で刺して中から放射線を当てる組織内照射療法に大きく分けられます。組織内照射療法は更に高線量組織内照射療法と小線源組織内埋込療法に分けられます。基本的には転移を認めず癌が局所にとどまっている場合に根治目的に行われます。転移は認めないが局所で進行している場合、手術の適応にならない場合、患者様の希望がある場合などに行われます。
前立腺癌に対する当科の治療方針
限局性前立腺癌のリスク分類
低リスク | 中リスク | 高リスク | 超高リスク | |
PSA | 10以下 | 10~20 | 20以上 | |
悪性度(グリーソンスコア) | 6以下 | 7 | 8以上 | |
ステージ | T2a以下 | T3a | T3bまたはT4 |
※低リスクは、3つの項目をすべて満たす。高リスクは、3つの項目のうち1つ以上満たす。
金沢大学附属病院での前立腺癌に対する治療方針
前立腺全摘除術 | 放射線療法 | ホルモン療法 | ||||
再発リスク | 外照射 (IMRT) |
小線源永久留置 |
高線量率 ブラキーセラピー |
|||
限局性前立腺癌 | 低リスク | ◯ | ◯ | ◯ | △ | |
中リスク | ◯ | ◯ | ◯ | △ | △ | |
高リスク | ◯ | ◯ | ◯IMRTと併用 | ◯IMRTと併用 | ◯ | |
超高リスク | × | ◯ | × | ◯IMRTと併用 | ◯ | |
転移性前立腺癌 | × | △ | × | × | ◯ |
※高リスク、超高リスクに対する放射線治療はすべて治療前に数ヶ月間ホルモン療法を行います。