女性泌尿器科外来
女性泌尿器科について
「女性泌尿器科」という言葉をお聞きになったことがない方も多いと思います。泌尿器科の病気と聞くと男性に多い印象を受けますが、排尿について悩む女性も大勢おられます。その女性の多くが恥ずかしさや気おくれによって泌尿器科へ受診できずに困っている現状から、女性を対象とした泌尿器科外来が設立されるようになりました。
男性と女性の体には大きな違いがありますが、最も大きな違いはやはり骨盤内の構造です。年齢に伴って、男性は前立腺が原因となる排尿障害が多い一方、女性は骨盤の筋肉が緩むことによって起こる症状が出るようになります。特に尿失禁や骨盤臓器脱などの病気は専門の診断・治療をうけることで非常に良くなります。一人で悩まずに是非専門医に御相談ください。
女性に多い泌尿器科の病気
はじめに
女性の骨盤内には膀胱・子宮・直腸といった臓器が存在し、骨盤底筋群が臓器を支えています。出産、手術、閉経といったイベントによって、この骨盤底筋群が弛緩すると臓器の位置が変わり、そのために様々な問題が起こるようになります。
その代表がお腹に力をいれるとおしっこが漏れるといった腹圧性尿失禁や腟から子宮が飛び出てくる骨盤内臓器脱または性器脱といった疾患です。
腹圧性尿失禁について
走ったとき、咳やくしゃみをしたときにおしっこが漏れる方へ
骨盤の中で、恥骨(下腹部に触る骨です)と尿道をつないでいるのが「恥骨尿道靱帯」です。この靱帯が弛んでくると、力を入れた時におしっこが漏れるようになります。これを腹圧性尿失禁といいます。ある報告では40代後半の女性では約40%の女性で腹圧性尿失禁が出現するといわれております。
骨盤内の靭帯について
治療法
骨盤底筋訓練(ケーゲル運動とも呼ばれます)
出産直後の失禁、軽度の失禁であれば骨盤底筋を引き締める運動にて改善することがあります。ただし全員が改善するわけではく、効果がでるまでに数カ月間の時間を要します。腟または肛門を締める運動(1日50~100回を目安に締めたり緩めたりしていただきます)ですが、わかりにくいことが多いため、私たちの女性泌尿器科外来では、運動の方法を専門医が説明いたします。ただし3ヶ月の運動とお薬で改善がない場合、手術をお勧めすることもあります。
(図)骨盤底筋訓練の姿勢
薬物療法(お薬の治療です)
腹圧性尿失禁を改善する薬はβ刺激薬というものがあります。しかし薬だけでは効果が十分ではないため、骨盤底筋訓練を行いながら、お薬を飲んでいただくことが多いです。
手術(TVT手術、TOT手術)
腹圧性尿失禁は骨盤の筋肉が緩むことによっておこりますので、程度によってですが運動や薬が有効ではないことがしばしばあります。以前はお腹を切って膀胱の出口を締める手術を行っておりましたが、最近では緩んだ尿道にテープを掛けて支える方法が主流になっております。TVT手術とTOT手術では、テープを通す場所が異なります。
(図)TVT手術とTOT手術の違い
1993年にウルムステン先生(スェーデン)が報告したTVT手術は現在までの70万人以上に行われ、術後7年を経過して完全治癒が81.3%、手術前より改善が16.3%とそれまでの方法に比べ飛躍的に向上いたしました。しかしお腹の中にテープを通すため、腸管や大血管といった重要な組織を損傷することがあると報告されています。
2001年にデローム先生(フランス)が報告したTOT手術は、TVT手術の方法を改良した方法です。テープを太腿の付け根に固定するため、組織を損傷することなくTVT手術と同等の治療効果を得ることができるようになりました。術後に大腿内側に違和感や痛みがみられることがあります。また、TVT手術に比べ、TOT手術は支えが弱くなるため、重症の腹圧性尿失禁には効果が低くなると言われています。
骨盤内臓器脱(子宮脱、性器脱)について
腟から何か出てくる物がある、臓器下垂感がある方へ
女性は、出産・閉経・子宮の手術などを経験した場合、骨盤の筋肉(骨盤底筋)が徐々に緩むことは、はじめにの項で紹介いたしました。尿道がゆるむと腹圧性尿失禁になりますが、その他の場所が緩み、支えを失った膀胱や子宮、直腸が膣から出てくることがあります。
膀胱が出てきた場合を膀胱瘤(ぼうこうりゅう)、子宮が出てきた場合を子宮脱(しきゅうだつ)、直腸が出てきた場合を直腸瘤(ちょくちょうりゅう)と言います。はじめは腟からピンポン玉のようなものが飛び出すといわれる方が多いのですが、年齢とともに悪化することが多く、排尿困難、性器出血、便秘などの原因になることがあります。このように骨盤底筋群がゆるむ方は非常に多く、全女性の10%で手術が必要になるとも考えられております。
1.膀胱瘤について
(説明)膀胱瘤は骨盤内臓器脱の中でもっとも頻度が高い疾患です。症状としては下腹部違和感、臓器下垂感、会陰部の腫瘤(ピンポン玉のような)、頻尿、残尿感、尿意切迫感、排尿困難などがあります。稀に重症化した場合には腎不全になることがあります。また膀胱瘤が見られる場合、腹圧性尿失禁を合併していることもしばしばです。
2.子宮脱について
(説明)膀胱瘤に続いて多い骨盤内臓器脱です。時には「茄子(子宮のこと)が下がる」とも言われます。症状は下腹部違和感、臓器下垂感、会陰部の腫瘤(ピンポン玉のような)、性器出血、掻痒感、痛みなどが認められます。子宮筋腫や子宮内膜症をはじめとする疾患により子宮を摘出された方は、子宮を摘除した断端が飛び出すことがあります。これを膣断端脱といいます。
3.直腸瘤
(説明)腟から直腸が飛び出してくる疾患です。肛門から直腸が飛び出す場合は直腸脱といって別の病気ですのでご注意を! 症状としては下腹部違和感、臓器下垂感、会陰部の腫瘤(ピンポン玉のような)、便秘、排便困難、便失禁などがあります。
(治療法)やはり手術が効果的です!
- 骨盤底筋訓練:腹圧性尿失禁と同様に、緩んだ骨盤底筋を運動によって引き締める治療です。軽度の骨盤内臓器脱であれば症状の進行を抑えることができます。
- ペッサリー:腟からリングを入れて子宮を支える方法です。一時的な効果はありますが、骨盤内臓器脱が悪化するとリングがしばしば落ちるようになります。またリングは体にとって異物ですので、長期間入れておくと炎症や感染をおこし、悪臭、出血、痛みの原因になります。ただし専門医に通院した上で、短期間使用するのであれば比較的問題が起こることは少ないので、手術を受けるまでの間に使っていただくこともあります。
- 手術療法
最近の骨盤内手術の発展には目覚ましいものがあります。
(従来の方法)
従来の子宮脱手術はお腹を開けて子宮を摘出する、または腟から子宮を摘出するという方法が主流でした。膀胱瘤、直腸瘤の手術は緩んでたるんだ部分を切り取って縫合する方法が行われておりました。しかし子宮を摘出した上に、約3~4割の方が再発するという欠点がありました。そこでTension-free vaginal mesh(TVM)手術、仙骨腟固定術といった術式が登場してきました。
TVM手術の詳細はこちら(TVMにリンク)
ロボット支援腹腔鏡下仙骨腟固定術の詳細はこちら(RSCにリンク)
過活動膀胱について
急におしっこがしたくなり、トイレまで我慢できない方へ
脳梗塞や神経の病気、糖尿病などにかかった後におこることが多いとされておりますが、過活動膀胱の80%は特に病気をしたことがない方です。失禁(尿漏れ)を伴う場合と伴わない場合があります。日本では約800万人がかかっていると考えられていますが、実際に泌尿器科を受診し、治療を受けられる方は5人に1人と言われています。特に失禁を伴う場合には行動が制限されることが多く、旅行や運動をためらわれる方もおられます。
(治療法)
薬で良くなることが多いです。
過活動膀胱には多くの原因があり、詳細に調べる必要があります。まずは私たちの外来にて十分に検査し、尿意を抑えるようなお薬(抗コリン剤やβ3刺激薬)を飲んでいただくことが多いです。過活動膀胱は近年注目を集めており、たくさんの種類のお薬が開発されていますので、是非相談ください。
急性膀胱炎について
おしっこをしたときに痛みがあり、回数が多い。また残った感じがある方へ
膀胱に細菌が感染すると炎症をおこし、このような症状がでます。これを急性膀胱炎と言います。通常は抗生物質を数日服用すると治るため、簡単に考えられがちですが、腎盂腎炎の原因になることや、膀胱がんが隠れていることがあります。この場合はまずは泌尿器科で御相談下さい。
(治療法)
急性膀胱炎の多くは大腸菌が原因となる場合が多いです。しかし稀に薬が効きにくい細菌が感染していたり、違う病気が潜んでいることがあり、治療に時間がかかることがあります。私たちは膀胱炎を起こしている細菌にどの薬が効くかを調べた上で治療を開始し、再発を予防する方法を指導しております。特に膀胱癌の場合は初期症状が膀胱炎と似ているので注意が必要です。女性泌尿器科外来では、膀胱癌が潜んでいる可能性があった場合には、慎重に検査を進め、早期発見を心がけております。
間質性膀胱炎について
おしっこが溜まった時に痛みを感じる、周りのひとよりおしっこが近い
おしっこが溜まった時に痛みを感じる、周りのひとよりおしっこが近い
急性膀胱炎に似た症状であるため、見逃されていることが多い病気です。これは原因不明ですが、膀胱の壁が硬くなり、おしっこが溜められなくなる間質性膀胱炎(かんしつせいぼうこうえん)の可能性があります。泌尿器科でも見過ごされることがあり、「精神的なもの、年齢が原因」と言われて悩んでいる方がとても多い病気です。
(治療法)
間質性膀胱炎は現在まで原因不明であり、治療に苦労することが多い病気です。診断は下半身麻酔をかけた状態で、膀胱にお水を入れて膨らまし、膀胱の状態を観察して行います。この方法は治療も兼ねており、半数以上の方で症状が軽くなります。ただしその効果は数ヶ月~1年ほどでなくなることがありますので、飲み薬なども併用することがあります。
女性泌尿器科外来スタッフより
泌尿器科は主に腎臓・膀胱・前立腺といった臓器を専門とするため、男性が多い傾向にあり、女性からは敬遠されがちです。私たちは周りを気にせずに受診できる泌尿器科を目指し、女性泌尿器科外来を創設いたしました。外来で待っている方々も同じ悩みを抱えているかたが多いですので、恥ずかしがらずに受診してください。(受診される患者様は全員女性ですが、メインの診察医は男性医師であることをご了承ください)
外来時間 火曜日 14:00~16:00(事前に御連絡ください)
原則として女性泌尿器科外来は予約制です。紹介状のない方の受診も可能ですが、待ち時間が長くなることを御了承ください。
TVM手術は子宮を摘出することなく再発率は数%という優れた方法です。しかし術後の性交渉に不都合を来たす患者様がおられますので、今後性交渉を望まれる場合には仙骨固定術をお勧めしております。
方法:膀胱と子宮の間および直腸と子宮の間に、メッシュを挿入して緩んだ骨盤底筋群を補強します。この方法であれば子宮を摘出せずに骨盤の緩んだ筋肉を補強することができます。
膀胱と子宮の間にメッシュを入れます:水色
直腸と子宮の間にメッシュを入れます:水色
現在のところ、われわれの関連施設では2000人以上の方がTVM手術をうけられております。
手術時間は膀胱瘤、直腸瘤だけであれば約1時間、膀胱瘤、直腸瘤+子宮脱の手術であれば1時間30分です。また手術後3~4日にて退院可能です。
最近では他の病院で子宮を摘出する必要があると言われた方が受診される場合も増えております。
(腹腔鏡下仙骨固定術について)
骨盤臓器脱の手術のほとんどはTVM手術によって改善することが可能です。しかし腟からメッシュを用いるTVM手術は術後の性交渉に不都合を来たすことがあります。(約10%と言われております) そのため術後に性交渉を希望される場合には、お腹からメッシュを挿入する「仙骨固定術」をお勧めいたします。以前は開腹手術にて行われておりましたが、当院では腹腔鏡を使ってお腹をほとんど切らずに治療する「腹腔鏡下仙骨固定術」を導入しております。 手術時間は4時間とやや長い術式ですが、術後3~4日で退院が可能です。